Last Updated 2022年11月8日
自分の周辺でこれから銃を持とうという人たちによく聞かれるのは、20番と12番どっちがいいのか??だ。海外のShooting Forum系の掲示板を見てても、この質問は多い。全人類共通の悩みといっても過言ではないだろう(大げさ)。
そして大抵の結論は「20番で全く問題なく、あなたの持っている要望を満足させることができるでしょう。あなたの思っている以上に十分なパワーを20番スラッグは獲物に与えることができます(機械翻訳風)」という回答でスレッドは総括される。
本当なのか??何を根拠に??数値的な裏付けが欲しい。
獲物を仕留めるのに必要なエネルギーとは??
| ゲーム | 最低限必要なエネルギー(ft.lbs) | このあたりでよいと思われる中間値(ft.lbs) | むしろこの方が安全といわれる値(ft.lbs) |
| シカ、イノシシ、アンテロープ、シープなど | 900 | 1200 | 1500 |
| エルク、エゾシカ、クマなどの270kgくらいまでのゲーム | 1500 | 2000 | 2500 |
| 大型ヒグマ、ムースなど 270gを超えるゲーム | 2100 | 2800 | 3300 |
弾道学にかける夢 改訂版,パワーと精度の交差点より 一部改変
スマホは右スクロール
この表は「弾道学にかける夢」というライフル射撃に取り組むものにとっての教科書のようなものからの引用である。表は本文の中で、各ライフル弾頭ごとに、距離に応じてパワーが減じ、それによる獲物を仕留めることの難しさについて論じられている部分に出てくる。私が使うのはハーフライフルであるが、とりあえず同じようなものとして考察する。
この表は標的に応じて要求する弾頭エネルギーがこれだけ違うと言うことを示しているのは見ればわかる。しかし、なぜこれだけ違うのかの説明はない。
縦軸の解釈はシンプルにみえる。標的サイズによって破壊するのに必要なエネルギーが大きくなるということを表しており、感覚的には正しい気がする。大きい生き物は骨格も頑丈だし、筋肉の鎧も纏っているからかな?という感じで。しかし、やや納得がいかない。
横軸はかなり謎である。この最低限、中間値、安全値はいったいどんな基準で決められているのだろう??なにをもって1000ft.lbsではヒグマに足りないというのか?1000ft.lbsでも首を撃ち抜けば仕留められるのではないだろうか?
これは、必要エネルギー値導出の前提条件を明示してなくて、すっきりしないのではないかと思う。この必要エネルギーを導き出すときに1.標的のバイタルゾーンに当てる 2.エネルギーが大きいと加害範囲が広くなる の二点を考慮する必要がある。
狙点による違い
頸椎、頭部を狙うとおそらく1000ft.lbsを下回る弱い弾でも貫通力の高い銅弾であれば破壊可能であり、獲物を卒倒させられるだろう。しかし、いわゆるバイタルゾーン(図1)は的が大きく、弱い弾で肺を破壊しても半矢で逃げられる可能性が高い。心臓に当たってもかなりの距離を逃げる。そのため、弾頭の必要エネルギーを論ずる場合、頭部を狙うとあまり差が出ないことになり、エネルギーの議論にならない。あとは、そもそもトロフィーハンターは頭部を狙わないということだろう。

https://feathernettoutdoors.com/the-best-shot-placement-to-hit-deer-vitals-every-time-never-miss-again/
加害範囲の違い
これは弾頭が生み出す瞬間空洞と永久空洞の問題でないかと考えている。
永久空洞は銃創において、弾頭自体が組織を切り裂いてできる破壊であり永続的に残る。また弾頭が通ったあとに残るので、破壊の大きさは通過した弾頭サイズ、数で決まる。対して瞬間空洞は弾頭が軟部組織を通過する際に、弾頭先端部から発生する衝撃波とキャビテーションによって生じる減圧された空洞である。詳細は以下引用。
銃による外傷は三つの因子が重要である。すなわち、crush(破砕)、 shock wave(衝撃波)、cavitation(空洞形成)の三つである。
つまり弾が体に当たるとまずそこで皮膚が裂け(crush)、体内に入ると特にhigh velosity missileの場合、衝撃波により遠隔の軟部組織の破壊を起こし、また弾道に沿って空洞(cavitation)ができる。この空洞は弾丸の直径と同じ径の永続的空洞(permanent cavity)の他に一時的な空洞(temporary cavity)が形成される(図2)。これは弾丸の通過途中に、周囲の組織が圧迫により破壊され、元に戻るためである。弾丸の速度が速いほどこの一時的空洞(temporary cavity)は大きくなる。弾丸は速くなるほど(特に900m/s以上)飛行中不安定になり振動(yaw)したり前後に回転(tumble)したりする。このため余計に永続的空洞は大きくなる(図3)。
また空洞は陰圧になるので体外の細菌が入り込む。また銃弾による熱だけでは細菌は死滅しない。弾道は汚染されたものと考える。
http://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/180204-124000.php
これを以下の動画から、みんな大好き弾道ゼラチンの破壊で例示する。
https://youtu.be/26K6AE_4tNA?t=764
この動画自体がビスマス弾頭の興味深い動画なのだが、これについては後日まとめようと思う。
図2が内部に複数の切れ込みが入った永久空洞である。

図3が見るからに絶望的な破壊を生じさせている瞬間空洞である。動画内で説明されている装弾スペックと距離からエネルギー計算したところ、この弾頭エネルギーは3300ft.lbs程度であった。これは300winmagと同等である。

以前、師匠が10m程度の距離から、逃げる半矢のシカを300winmagで撃つところを横で見ていたのだが、このゼラチンのように腹腔が破裂した。条件が整えば、創傷はこの実験の通りの事象になるだろう。
もはや説明不要だが、このレベルのエネルギーを投射された場合、獲物の軟部組織はズタズタになるのは明らかだ。
この瞬間空洞の大きさは弾頭エネルギーに比例するため、より大きな弾頭エネルギーであれば、より大きな範囲を加害できるといえる。そのため、大きな獲物に対して大きな弾頭エネルギーを投射できると仕留める確率も上がるといえるだろう。言い換えれば、大きな弾頭エネルギーの方が「狙える的が大きい」ということでもある。
遠い獲物を狙うということは、永久空洞しか加害範囲が期待できないこともあり得る。その場合はナイフで急所を刺すような繊細さが求められる。
必要エネルギーの解釈
まとめると獲物仕留めるのに必要なエネルギーとは、バイタルゾーンを狙いつつ、確実に死に至らしめる破壊を与えるために必要なエネルギーとなる。これがエゾシカの場合は2000ft.lbsで概ねOKとなるのだろう。
そのため、頭部、頸椎を破壊する場合、弾頭エネルギーはあまり重要ではなくなる。非力でも正確に当たる弾の方が有利だ。
とどのつまり、当たりゃあいいってもんじゃない
元々の話題に戻る。12番と20番はどっちがシカ獲れるのか。この特性の違いを装弾の違いから考えてみたい。
弾道係数等が公開されているFederal Trophy Copperシリーズのサボットで比較する。計算に用いたのはSHOOTERSCALCULATOR.COMである。
まずは20番の2 3/4 P208TCだ(図4)。これはとても弱い。出だしから2000ft.lbs出ておらず、必要最低限といわれる弾頭エネルギーは30ydまでしか持続しない。
北海道の草地で、距離100m内外のシカと戦うにはバイタルを狙っても難しいかもしれない。頭部、頸椎の精密狙撃を要求されるだろう。

次は20番3inchマグナム P209TC(図5)。これは撃ってる人が少ない。20番のくせに反動が大きくなってしまうといわれる。しかし、性能は高い。高初速のおかげで、エネルギー投射力は80m程度のエゾシカまで倒せそうだ。

3つ目が12番 2 3/4 P152TC(図6)。重い弾頭の上に、高い銃口初速。すごいパワーだ。100mまでのシカなら十分獲れる。しかも、重い弾頭のおかげで弾道係数も高いため、200ydのドロップも20番と同等以下。ただし、相応の反動が想定される。

こうやって比較してみると12番の方が、弾頭エネルギー投射能力の点で、エゾシカに対して相当に有効なように見える。デメリットは反動が大きく、精密射撃に向かないとされることだろうか。
まとめ:北海道で有効な口径は??
北海道の大物猟の特徴は、比較的ロングレンジのフィールド。エゾシカ、ヒグマなどというベルクマンの法則よろしく大きな獲物。ということになるだろうか。
いろいろと投射できるエネルギーを検討すると、数値計算上で最強なのは弾のエネルギー投射力、有効射程の面からも、反動を抑制できるマズルブレーキ付きA-BOLT等ということになる。ついでに12番の方が供給安定性も良い。
自分は20番のサベージ使いなので、A-BOLTを撃ったことがなく、どれだけ違うのかはわからない。巷では20番の方が精密に撃てると言われる。実際、A-BOLTを使う知人たちは反動で嫌になると言っているが、体感する反動は火薬の燃焼速度やバットプレートの硬さ、技術などで大きく変わってしまうだろう。でもとりあえず、12番は反動が強烈でロングレンジ射撃が苦手と仮定する。
実際のところA-BOLTのマズブレーキは寸法指定の特注でないと手に入らないことから、一般論としては前項の比較でいうと、20番で3inch弾を撃つのが、威力と精度のバランスが良くなる気がする。
では、2 3/4弾で獲れないのかというとそうでもなく、自分の最長不倒では220mのシカも獲れた。この距離だと、自分の腕では大きくランダムに着弾位置がブレるから命中率は10%もなかっただろう。
それでも肩から頸椎を破壊することで、一撃で転ばせることができた。このような丁寧な射撃ができたのは20番のマイルドな反動の弾だからだと思う。
そうすると大きく2つのタイプに分類できそうだ。
1.近接格闘スタイル:100m未満まで接近して、大きいバイタルにバカスカあてて、シカ獲りたい人は12番。破壊力があるから的が大きい。これは流しやコール猟、タツマの人とかだろうか。
2.遠距離狙撃スタイル:最大射程150mまででネックハンターを目指す丁寧な射撃がしたい人は20番。精密射撃が必須。忍びで攻める人はこっちかな。
といったところだろうか。
最後に
長い記事になった。最後に自分が20番を使っていて、少し贔屓したい気持ちと満足している気持ちから、よかったことをあげると、弱い弾ゆえ丁寧に撃たないとシカが獲れないことである。
遠ければ遠いほど小さく狙わなければならず、射撃自体の技術向上もできるし、とても綺麗に獲物を得られるという点は捨てがたい。
ミートハンターならば、穴だらけのシカは食べたくないだろう。
結局、最後は使用シーンごとに得意な道具が変わるから、やりたいスタイルに合わせて選べばいいとなるが、「獲物を倒すのに必要なエネルギー」の視点で考えると20番の2 3/4は相当に非力であると思っておいた方がいい。たぶんバイタルに当たったのに逃げられるということが頻発するだろう。自分もそうだった。狙うのはそこじゃない。
論旨から、マズルブレーキ付き20GA 3”薬室の銃が最良に思えますね
コメントありがとうございました。
そうですね。目的に依りますが、狩猟による食肉の生産に限れば自分も同じ結論に至っています。